大矢拓郎
S・F盆 展

2025/10/05

会期:2025.11.1(土)〜18(火)
作家在廊:1(土)、2(日)
会期中無休

ふらりと訪れてくれたのは5年くらい前。小さな我谷盆や拭き漆のお盆など、手刳りの作品をいろいろ持って来てくれたことを思い出す。例えるならば、どこかの古民芸店に入って偶然に見つけたような、無記名の木工品みたいだった。いま現在つくっているものが、背伸びしすぎず等身大の姿に近い気がして、自然とやり取りが始まった。

我谷盆のような、木の塊にぶつかっていくような仕事を好み、荒彫りをしたあとカンナやノミを使う。「駄作でも、たくさん手を動かしていた方が良い」と言うだけあって、これまで多くの習作を見てきた。そんな中から、大胆なノミ目が気持ち良い隅丸重箱、紙箱のような名刺入れなど、やはり古物のような佇まいの、しかし独創的な作品が生まれていると思う。

我谷盆に憧れて木工の道に入ったという事もあって、原点である手刳盆に力を入れているのだが、特に印象的な作品を二つ。一つはノミ目が破壊的に素晴らしい、松の讃岐盆。時間とともに、松脂が全体的に馴染んで艶が出てくる。もう一つは生漆(きうるし)仕上げの栃の藤原盆。拭き漆以上・溜め塗り未満で、木目を生かさず殺さず、うっすらと奥に木目を感じる程度に塗り重ねて黒漆の佇まいに近づけている。古いもの、美しいものへの憧れ ー その眼差しがうつし変える新しい色かたち。時代や地域は異なるが、木をかたちづくる感触自体は今も昔も同じであり、手で削った感覚を大事にしている。ただし忠実なトレースではない、念の為。ということで、それぞれS盆、F盆と記号的に表記していくことにした。



略歴)
大矢拓郎 / Takuro OYA
1986年 誕生
2012年 京都伝統工芸大学校木工芸専攻卒
2012年 佃眞吾に弟子入り
2018年 亀岡にて独立

Photo:Kazumasa HARADA

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