Kitは2012年に雑貨商として開店しました。
キットとは素材、パーツ、そしてそのセット。
ものを通して気になる”何か”を引き出して、今まで多くのテキストを書いてきました。
作家と開催した展示や企画から生まれた10のキーワード(A面)、そして裏のテーマ(B面)を振り返り、記録として残します。
ひとまず、草稿とします。
目次)
Side A
1.
ポケットマフラー
hou homespun (ホームスパン)
ホームスパンとは羊の原毛を洗って、紡いで、糸にして、時には染めて、織って、縮絨した織物のこと。勿論すべて手作業。意外と織りたてホヤホヤはペラっとした布になるが、それを揉んだり踏んだりすると絶妙な匙加減でふっくらする。まるで空気ごと織られた糸が、羊として再び立ち上がるみたいだ。さまざまな品種をブレンドしたり、カシミヤやシルクを引き揃えることもあるが、経験と感覚で絶妙な1枚に仕上げている。
ホームスパンの空気のような軽さ、それに反比例するような暖かさを感じることが出来るのが「ポケットマフラー」だ。卵1個分ほどの軽さで、ポケットに丸めて入れて出かけても存在を忘れてしまうほどコンパクトで軽いのに、しっかり暖かいという魔法がかかってる。なんてコスパが良いのだろう。制作にかかるタイパは最悪なんだけれど、だからこその軽やかさだと思うのだ。
※ホームスパン
home(家)spun(紡ぐ)の名の通り、家畜である羊の毛を刈り取り、その原毛を自宅用に紡いで織ったことがはじまりとされる。糸を織ると1枚の布になるが、ホームスパンの場合は織ってから縮絨することによって更に繊維が空気を含み、ふっくらと起き上がる。
略歴)
上杉浩子 UESUGI Hiroko
旅行や暮らしにまつわる雑誌・書籍の編集/ライターとして活動する傍ら、2006年より東京・清野工房にて清野詳子氏に師事。ホームスパンを学ぶ。2010年恵文社一乗寺店ミニギャラリーにて初個展。以来、場所をKitにうつし、年に一度のペースでホームスパン作品の展示会を行う。
2.
幸福のハンカチ
大滝郁美 (染織物)
凍てつく冬のなか、太陽の光のように明るく射す色を織る。スウェーデンで染織物を学んだ大滝さんならではの、大胆な色の取り合せ、複雑な図案が目を惹く。彼女の故郷・庄内地方にも藍染め、紅花染め、紬、絣といった染織物があるが、スウェーデンと庄内のフォークロアを掛け合わせたようなニュアンスを感じている。
染織物の入門編として「ハンカチ」がある。それはテキスタイルの魅力が濃密に詰め合わせにされた、絵画のような小作品。そのままスカーフにしても良いくらいの色と図案のミニチュア版とお考えください。ポイントは、携帯していることを忘れるほどコンパクトであること、速乾性があること、吸収性が高いこと。そして一番大切なのは、食事をする時に膝に掛けれるくらいのサイズがあること。毎朝、1枚の綺麗なハンカチをおろす。誰にでも訪れるそんな瞬間が、小さな芸術とともに始まったら最高だと思う。
略歴)
大滝郁美 OTAKI Ikumi
山形県出身。スウェーデン、ダーラナ地方にある手工芸学校で3年間、現地の文化や自然の中で大切に受け継がれてきた、伝統的な織物や手工芸を学ぶ。
3.
普通は未来にある
中本純也 (焼きもの)
4.
熱量で焼くうつわ
壷田和宏・亜矢 (焼きもの)
壷田さんが住む高千穂・黒原(くろばる)の原土(げんど)を粘土にし、炭化焼き〆した作品がある。採掘した原土は白粉のようにキメが細かく白いけれど、焼くとグレー、ブルー、ピンク、ブラウンなど様々なグラデーションが出て、恐竜の卵のような斑点や貫入が入る。炭化は土に含まれる酸素を完全に奪ってカラカラにするということらしいが、窯の中を圧力鍋のような状態にすると言えば分かり易いだろうか。通常より3倍の薪を使って、温度というよりは高い熱量で焼く。そうすることで石のように締まった、硬い焼きものが出来上がる。
黒原原土だけでなく、天草白磁、唐津、伊賀、 猿投(さなげ)、耐火土なども使って、丸っと同じ窯で焼いたりもするのだが、粘土にすると性質がかなり違うので、特性に合わせて成形する。そこに決まりは無く、即興の音色、実験音楽みたいだ。特に原土を炭化で焼くのはリスクが高く、割れたり変形することも多い。不揃いだけれどそれが自然な流れだし、自由だ。作品が届いて段ボールを開封する時、いつも高千穂の空気を感じている。土付きで収穫された健康な農作物(オーガニック)そのままだなあ、と。
略歴)
壷田和宏 亜矢 / TSUBOTA Kazuhiro,Aya
1972年
和宏 三重県伊賀市に生まれる
亜矢 愛知県安城市に生まれる
1995年
愛知県芸術大学陶磁器専攻科卒
愛知県長久手市に登窯を築窯
2000年
三重県伊賀市融栗谷に穴窯築窯
2009年
宮崎県高千穂五ヶ所に登窯築窯
2011年
同地に穴窯を築窯
5.
S・F盆
大矢拓郎 (木工)
ふらりと訪れてくれたのは5年くらい前。小さな我谷盆や拭き漆のお盆など、手刳りの作品をいろいろ持って来てくれたことを思い出す。例えるならば、どこかの古民芸店に入って偶然に見つけたような、無記名の木工品のようだ。背伸びしすぎな等身大の姿に近い気がして、自然とやり取りが始まった。
我谷盆のような、木の塊にぶつかっていくような仕事を好み、荒彫りをしたあとカンナやノミを使う。「駄作でも、たくさん手を動かしていた方が良い」と言うだけあって、これまで多くの習作を見てきた。我谷盆に憧れて木工の道に入ったという事もあって、原点である手刳盆に力を入れているのだが、特に印象的な作品を二つ。一つはノミ目が破壊的に素晴らしい、松の讃岐盆。時間とともに、松脂が全体的に馴染んで艶が出てくる。もう一つは生漆(きうるし)仕上げの栃の藤原盆。拭き漆以上・溜め塗り未満で、木目を生かさず殺さず、うっすらと奥に木目を感じる程度に塗り重ねて黒漆の佇まいに近づけている。
古いもの、美しいものへの憧れ ー その眼差しがうつし変える新しい色かたち。時代や地域は異なるが、木をかたちづくる感触自体は今も昔も同じであり、手で削った感覚を大事にしている。ただし忠実なトレースではない、念の為。ということで、それぞれS盆、F盆と現代的に記号として表記していくことにした。
略歴)
大矢拓郎 / OYA Takuro
1986年 誕生
2012年 京都伝統工芸大学校木工芸専攻卒
2012年 佃眞吾に師事
2018年 亀岡にて独立
6.
火星へのアプローチ
MAISON GRAND’AILE (古物)
7.
BANANA TIME
柴田有紀 (ガラス)
試しに使ってみるか、と初めて注文したのはごくごく普通のコップ。持ち応えがあって、口縁の厚みや丸みがちょうど良く気に入った。京都の軟水、それも常温は柔らかくて優しい。そういう繊細な揺らぎには、普通のガラスコップがよく似合う。好きで使っている、ほとんど特徴の無い昭和初期の吹きガラスにも通じる感覚。それは突き抜けた普通。とにかく余計なものが一切なくて気持ち良い。何もないって自由なんだ。ゆらゆら揺らぎながら平熱のバランスを探っているようにも見えるけれど、その中にうぶな硬い芯みたいなものを感じた。
ある日、工房でパート・ド・ヴェールのBANANAを見つけた。ガラス粉末を石膏型の中で熔融して成型する技法で、吹きガラスとは違って、制作途中に素材を手で触ることが出来る。そのせいだろうか、美学生がスケッチする静物画のような佇まいを感じていて、より自分らしい”かたち”に向き合っている気がした。今回は、彫刻的なパート・ド・ヴェールのかたちを、逆に吹きガラスに持ち込んでいただいた。ところでBANANAはシンプルなかたちでありながら、一目見て誰もが認識できる完璧なかたちだと思う。色、サイズ、テクスチャーはバラバラのテストピースのような詰め合わせをBANANA TIMEと呼ぶことにした。
略歴)
柴田有紀 SHIBATA yuki
1993 神奈川県生まれ
2017 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科ガラス専攻 卒業
2017 同校 教務補助員
2018 秋田市新屋ガラス工房 勤務
2021〜現在 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科ガラス専攻 助手
8.
数モノ
志賀裕昭 (乾漆)
乾漆は木の素地を使わず、石膏型でかたちを成形し、麻布を糊漆で貼り重ねて素地を作っていく。木の素地では難しいフォルムの薄さ、柔らかさが特徴的で、表面的な漆の層が薄く、引き締まっているから落としても衝撃が少なく、漆が割れにくいという特性がある。紙のように軽く薄いが、繊細な印象に反して、とても強い。漆は縄文時代から使われていて、遺跡から出る漆仕上げの発掘品は驚くほど状態が良いと言われる。そして傷や割れを接着して内包するから、すべてを上書き出来る。古くからある素材だけれど、自然物なのに「残る」し、塗り「足せる」し、「塗装」としての機能はすごくイマっぽい。流れる樹液が立体をつくる。今まで漆のテクスチャー、表面ばかり見ていたけれど、大事なのはそこでなかった。
重要文化財を修復する漆の仕事を生業にしてきた志賀さんだが、プラスチック的な便利な漆を工芸やアートと切り離して、もっと現代的なプロダクトとして表現している。目指すは普通に日常に馴染む数モノ。だから型を使い、同じかたちを複製することにこだわっているのだが、型を外す時に石膏型を割らねばならない。つまり、一つにつき一つの型が必要になるのだが、石膏にしか出せないニュアンスがあるからと彼は言う。
略歴)志賀裕昭
1979年 福島県いわき市生まれ
2006年 東北芸術工科大学大学院漆芸修了
2008年 目白漆芸文化財研究所入社
2012年〜祐天寺寺宝(漆工品)修理室勤務
文化財修理に従事 2023年 福島県いわき市にて独立
9.
生の傷跡をパッケージ
小松未季 (彫刻)
10.
光のあるところに影がある
アーノルド・ギルバート (写真)
アーノルド・ギルバート氏ことアーニーとは1990年代の終わり、シカゴで会った。彼は有数の写真コレクターでありながら、自身でも”フォトグラム”という表現方法で作品を制作してきた。それはカメラやフィルムを使わず、暗室の中で創り出される。印画紙の上に物や材料を直接置き、そこに光をあてて焼き付けるのだ。透かしたり、多重露光で様々な角度から光をあてることで豊かな色調・positive / negativeの空間というような、別の効果を生み出す。その結果としてのイメージ(作品)は唯一の”一つしかないもの”という点において、非写真的である。
90年代になると自らのフォトグラム作品をポラロイドに取り込み、複製した。それらは光によって生成された像を物質的な操作によって定着・変容させた作品で、一般的な写真ではなく版画のように見る人も多いだろう。彼の試みは、生涯を通してカメラで真実を写すことではなく、光の形成とその造形ー感光物体そのものと無邪気に戯れることだった。光があるところに影があり、私たちはそれらが織り成す像を見ている。だから、カメラは光を写す機械であると言って良い。
彼の作品は一般的な写真とは違い、非常に良く計算され、簡潔化された理念と美意識によって支えられている。亡くなるまで、積み重ねるように創られた膨大な作品数があり、発表する目的は無かった。長い遊び=量が多い、ということに価値があると感じている。そこには物語や時間の概念も無いのだが、写真は光であるというシンプルな事実が残されている。
1921年ニューヨーク生まれ。
シカゴ大学卒業。
高校・大学時代を通じ、写真制作に対する興味を広げ、1960年代の終わりにアーロン・シスキンドとアーサー・シーゲルに出会い、表現としての”フォトグラム”の可能性を追求し始めた。また同じ頃から写真のコレクションを始め、ギルバート夫妻のコレクション(Arnold and Temmie Gilbert Collection)はアメリカでも有数のコレクションの一つとなっており、京都近代美術館には1000点を超える作品を寄贈している。
Side B
1.
数モノ
2.
ちょっと、古いもの
3.
珍品名品
4.
気に入らないものは塗りつぶすに限る!
5.
Think pink
6.
アルミニウム礼賛
7.
ままごと
8.
ポジャギ
9.
顔、口、手、足、そしてドール
10.
ケミ子
