壷田太郎 - ガラスのコップ

2026/07/31

2026.8.8(土) ~ 8.18(火)
作家在廊:18(土)~ 19(日)
会期中無休

シンプルな小皿を素地にして焼かれた、たくさんの釉薬テストピース。それがはじまりだった。工業高等専門学校で材料工学を学んだというだけあって、実験好き。身近にある土や砂を採ったり、混ぜたりして、窯の中で起こる化学変化を楽しんだピースだ。見込みが平らで、少しだけ縁が立ち上がったかたちは、身近にある瓶の底を型にしたそうだが、図らずも好み。あまり考えずに闇雲に焼いてみたら?と言うと、彼は本当に焼いてきた。たくさんの成果物を並べながら、いろいろなことを話したものだ。それは私たちがなにが好きで、どんなことが嫌いか──終始そのようなことだった。

ある日、コップをひとつ持ってきてくれた。お気に入りのガラスコップで型を取り、口元や底の柔らかなラインがつるんと現れるように工夫されている。90%ガラス質で出来ている陶土で焼いているから、うっすら透ける、まさにガラスのコップ。学生時代にガラスを使った研究課題が楽しかった思い出や、素材としての美しさに憧れがあることを話してくれた。

この夏は薪窯だけでなくガス窯でもたくさんコップを焼いた。同じものはなく、どれが完成でもなく、すべては実験の途中かもしれない。窯出し後の融栗谷は、小さな生きものが集まってきたように賑やかで、とても静かだった。自然発生したものは自然へとかえっていく。光にかざして見た憧れのかたちは、金すくいの末の結晶のようにキラキラしていて、雄大な自然と同じように美しく存在していた。



略歴)
壷田太郎
Taro TSUBOTA

1994年
三重県に生まれる

2020年
伊賀に住みはじめる

2023年
窯をつくる



壷田亜矢 展

2026/07/11

2026.7.18(土)〜7.28(火)
作家在廊:18(土)
会期中無休

ガス窯での作陶がはじまった。つい2ヶ月前、急にハンドルを切ることになったのだ。新しい土、釉薬、そして窯場。今まで向き合ってきた薪窯とは勝手が大きく違うけれど、培った経験と馬力は十分備えている。時間は無いけれど、やりましょう!そんな風にはじまった。

いろいろなことがあったのだが、そこから初窯まで辻褄が合わないくらい早かった。薪だから出るような重厚さ・味わいは無いが、土・釉薬の素材感をそのまま出せるガスの窯。質感が付かない分、ありのままの造形がいっそう見えてくる。少しグレーがかったり、ピンクがかったりした肌を見て、加工なしのグラビア、裸みたいだと思った。自然と人のエネルギーをたっぷり集めて焼く薪窯の仕事から飛び出して、こちらは究極にサクッと軽やかだ。かつての決まりごとから解き放たれたいま、楽しいですか?と聞いてみた。答えは言うまでもない。



略歴)
壷田亜矢
Aya TSUBOTA

1972年
愛知県安城市に生まれる

1995年
愛知県芸術大学陶磁器専攻科卒

1995年ー2026年
長久手ー伊賀ー高千穂の地を経て、穴窯・登窯で作陶する

2026年
ガス窯で作陶をはじめる



後藤洋司 製籠展

2026/06/12

2026.6.13(土)〜23(火)
作家在廊:13(土)、14(日)
水木定休

ある初夏の朝。目覚めてすぐ、ベッドの中でinstagramを開くと青竹の籠が目に飛び込んできた。あ、綺麗。特別なにかが特徴的なわけではないが、画面越しでも、不思議と心惹かれてしばらく見入ってしまった。そんなことは珍しい。テキストを読むと、まさに今日から展示会とのこと。行こう!そんなこんなで飛び起きてから数時間後には、会場にいる作家と会っていた。そこで、二種類の籠を持ち帰ることにした。ひとまず洗った食器の水切り籠に、もう一つは脱衣籠にしたのだが、それは前からあったかのようにわが家に馴染んでくれた。


なにかと籠の類は好きで、かたちや素材が面白ければ、一旦は目的を忘れて使うことにしている。自ずと生活の中で使いみちが決まっていくし、軽くて丈夫な籠はいくらあっても困ることはない。改めて振り返ると、出所を問わず古いものを選ぶことが多く、それは農作物の収穫用だったり、なにかを運ぶための道具だったり。用途がはっきりしているものほど、どうしてこの設計になったのか腑に落ちるし、推測するのもまた楽しい。時には、間に合わせで用意されたであろう不揃いな素材を、どうにかこうにか大きなひとつの塊に編み上げた籠も、少し歪だからこそ愛おしいと感じる。後藤さんの籠に惹かれたのは、計算された美しい建築物のなかに、無記名の古いものにも通じる愛嬌を感じたからかもしれない。


後藤さんは竹細工の産地である大分で製籠を学んだそうだが、旅が好きで、さまざまな風土に触れてきた。そんな経験のなかで出合った、人々の暮らしのなかに生きている民芸品の姿が好きなようだ。春に工房を訪れた際は、棚田が幾重にも広がる山道を走り、近くの竹林を見学した。帰りは鉄輪温泉でひとっ風呂浴びて、散歩してから帰ることに。地元で長く商売されているお店では、当たり前に備品として使われている竹籠の風景を見たのだが、使い込まれて良い色になった籠を見ると、やはり良いなと思う。聞くところによると、私が美しいと感動した壮大な棚田は行政の政策で大区画化され、削って一枚にされる予定だそうだ。当たり前にあると思っていたものが、今日では失われつつあるのだが、青い竹の香り、最初に感じたみずみずしい自然の気持ち良さ…その静かな存在はあの棚田の美しさに通じているような気がしてならない。




略歴)
後藤洋司
Hiroshi GOTO

中本純也

2026/04/29

2026.5.9(土)〜5.19(火)
作家在廊:9(土)
会期中無休

朝は静かにやってくる。

ゆっくりとコーヒー豆を挽く音が鳴りはじめ、まだ薄暗い台所にケトルの湯気が立ちのぼる。

しんと静まりかえった山の家に、光は真っ直ぐ降りてくる。


ー inner light(内なる光)


ふと、そんな言葉を思い出す。誰にしも降り注ぐ、小さな光。

暗闇に潜んでいたものへ少しずつ陽が届き、やがて一日は動きはじめる。調律のように繰り返される日常から、白い器は生まれる。



略歴)
中本純也
Junya NAKAMOTO

1998年 和歌山県龍神村へ薪窯を作るため移る
2011年 焼締から白磁の器に



photo : Shingo HIKIAMI

原田教正
A slice of time

2026/01/29

2026.1.30(金)〜2.17(火)
作家在廊:1.30(金)〜2.17(火)
水木定休

どうやら時間は直線的に流れてはいないらしい。ときどき、そんな時間と戯れてみる。いつもより早起きをして、無目的に見知らぬ土地に移動する。数時間後にはどこかしらの場所に降り立つことができるし、唐突に体をポーンと放り出して、初めての景色に出合うのだ。ローカルバスに揺られて行けるところまで行ったり、ご当地グルメをハシゴしたりして、なんとかその日中に帰り、いつもと同じ時間帯にはベッドに入っている。まるで無かったかのような1日を振り返ると、劇的なことは起こらないのだが印象的な場面は2つ、3つと断片的に浮かんでくる。そういう日は時間をワープするかのような大移動をしたせいか、肉体に負荷がかかり、とても消耗してしまう。時空を圧縮したんだから仕方ない…そんなことを思いながら、深い眠りにつく。

2025年に月刊原田教正(Monthly Kazumasa Harada)と称して、習作を発表していただいた。静物、人物、風景などの被写体を等しく扱い、淡々と目の前の現象を捉えている。作品とそれに添えられた小文も”かたち”であり、その写真と言葉は似ているように思えた。再び光を通して、私は写真が内包する時間を見ている。小さく切り取られた四角のなかに、細切れで、並べ替えられ、圧縮された、あの懐かしい時間を思い出さずにはいられないのだ。




2023年9月、ベルリンに渡った。
それは、写真と叙情の癒着について改めて問うことに始まり、物事はどのように存在し、変遷しているのか、その客観的な事実と断面を深く観察・考察したいとの思いからだった。
私たちの生きている時間は、本当に線のような形状で続いているのだろうか。全く異なる出来事の断面が、無意識のうちに数珠繋ぎになっているだけだとしたなら、写真はそれらを分解できる極めて興味深い装置と言えるだろう。
本展示では、2025年1月からKit onlineで”Monthly Kazumasa Harada”として連載した作品を発展させ、散文のような形で展示いたします。昨年9月には正式にベルリンに居を移し本格的にドイツと日本を往来する生活となるなか、一貫して続いてきた写真を巡る思考の軌跡と対話の断片を、ご覧いただけますと幸いです。


ー 原田教正


略歴)
原田教正 | Kazumasa Harada
1992年東京生まれ。2016年に武蔵野美術大学映像学科卒業後はコマーシャルフォトグラファーとして活動する傍ら、積極的に展覧会や写真集の制作を続けてきた。2020年には初の写真集『Water Memory』を刊行し、その後『An Anticipation』『Obscure Fruits』などを刊行。2023年にはベルリンでの滞在制作を経て『時間の園丁』(南青山information)での展示や写真集『My origin photographs』を新たに刊行。2025年9月から本格的に制作拠点をベルリンに移す。

https://www.kazumasaharada.com

大滝郁美
väv – Vinter
織 - 冬

2025/11/09

2025.12.6(土)〜16(火)
作家在廊:6(土)
会期中無休

väv(ヴェーヴ)はスウェーデン語で「織る」の意味。今年はカシミヤの単糸を使い、より薄く・軽やかに仕上げた正方形のスカーフサイズを織っていただいた。とにかくこのサイズは便利。室内でもシルクスカーフのようにクルクルっと巻く。ハンカチのようにクシャクシャっとポケットに仕舞う。もっと寒い時は、大判のストールと重ね付けしても良いだろう。凍てつく冬のなか、太陽の光のように明るく射す色を織る。スウェーデンで染織物を学んだ大滝さんならではの大胆な色の取り合せ、複雑な図案が目を惹く。

イエローを基調として、さまざまなラインが走るスカーフには35のパターンが織り込まれている。もともとサンプルとしてリネンで意図せず織られた、素材の欠片だったが、私にはキラキラと魅力的に映った。既にそこに存在する、ありのままを風景にしてもらい、結果的には細やかなテクニックを盛り込んだ、贅沢な1枚となった。

相変わらず、ほとんどの糸を自身で染めている。例えばイエローという色にもグラデーションがあり、この場合は青みを感じるレモンのようなイエローだ。小さいが、スカーフの顔をしたテキスタイル-väv-の醍醐味を大いに感じる。それは色、手触り、温もりといった感覚的に好きな要素と要素をギュッと建築学的に詰め合わせにした、とてもハッピーなセットなのだ。

略歴)
大滝郁美(Ikumi OTAKI)
山形県出身。スウェーデン、ダーラナ地方にある手工芸学校で3年間、現地の文化や自然の中で大切に受け継がれてきた、伝統的な織物や手工芸を学ぶ。
https://itori-vav.com

石原真理
Mari KNITTING

2025/11/07

会期:2025.11.15(土)〜11.25(火)
作家在廊:15(土)
会期中無休

真理・編みもの。確か、数年前も自動的にこのタイトルを付けた記憶がある。そう並べて記したくなるくらい、季節を問わずに編んでいるそうだから。金木犀が終わり、台湾椿が咲き始めた。冬の到来を感じていたところ、久しぶりにセーラーウォーマー、手袋、マフラーなどが届く。早く正しく美しくつくられた既製品に慣れ親しんでいる私だけれど、この手編みはそんな洋服にもよく似合う。どこか分からないが異国的な色、懐かしいかたち、ふっくらと空気を含んだ、手編みならではのこの感触。人の温度を通して作品は完成する、という真理さんの言葉があるが、まさしく。遠くて温かい記憶を手繰り寄せていると、子どもの時に好きだった絵本を久しぶりに開いた日のことを思い出した。寒い冬の中にある温度は、温かな感情を紡いでいくから好きなのだ。

大矢拓郎
S・F盆 展

2025/10/05

会期:2025.11.1(土)〜18(火)
作家在廊:1(土)、2(日)
会期中無休

ふらりと訪れてくれたのは5年くらい前。小さな我谷盆や拭き漆のお盆など、手刳りの作品をいろいろ持って来てくれたことを思い出す。例えるならば、どこかの古民芸店に入って偶然に見つけたような、無記名の木工品みたいだった。いま現在つくっているものが、背伸びしすぎず等身大の姿に近い気がして、自然とやり取りが始まった。

我谷盆のような、木の塊にぶつかっていくような仕事を好み、荒彫りをしたあとカンナやノミを使う。「駄作でも、たくさん手を動かしていた方が良い」と言うだけあって、これまで多くの習作を見てきた。そんな中から、大胆なノミ目が気持ち良い隅丸重箱、紙箱のような名刺入れなど、やはり古物のような佇まいの、しかし独創的な作品が生まれていると思う。

我谷盆に憧れて木工の道に入ったという事もあって、原点である手刳盆に力を入れているのだが、特に印象的な作品を二つ。一つはノミ目が破壊的に素晴らしい、松の讃岐盆。時間とともに、松脂が全体的に馴染んで艶が出てくる。もう一つは生漆(きうるし)仕上げの栃の藤原盆。拭き漆以上・溜め塗り未満で、木目を生かさず殺さず、うっすらと奥に木目を感じる程度に塗り重ねて黒漆の佇まいに近づけている。古いもの、美しいものへの憧れ ー その眼差しがうつし変える新しい色かたち。時代や地域は異なるが、木をかたちづくる感触自体は今も昔も同じであり、手で削った感覚を大事にしている。ただし忠実なトレースではない、念の為。ということで、それぞれS盆、F盆と記号的に表記していくことにした。



略歴)
大矢拓郎 / Takuro OYA
1986年 誕生
2012年 京都伝統工芸大学校木工芸専攻卒
2012年 佃眞吾に弟子入り
2018年 亀岡にて独立

Photo:Kazumasa HARADA

2025年下半期スケジュール

2025/09/04

7月19日(土)ー29日(火)壷田和宏・亜矢

8月16日(土)ー26日(火)柴田有紀

9月13日(土)ー23日(火)MAISON GRAIN D'AILE

10月11日(土)ー21日(火)黒畑日佐代

11月8日(土)ー12月2日(火)大矢拓郎

11月15日(土)ー25日(火)石原真理

12月6日(土)ー16日(火)大滝郁美


展示の規模は大小いろいろです。
予定は変更になる可能性があります。事前にweb site、SNSをご確認のうえご来店いただきますようお願い致します。

展示会の詳細はこちらのHPで随時ご案内しております。

MAISON GRAIN D'AILE
l’ Art Japonais / ラールジャポネ
- ジャポネの骨董と西洋のエッセンス -

2025/09/01

会期:2025.9.13(土)〜23(火)
作家在廊:13(日)
会期中無休

はじめてMAISON GRAIN D’AILEの扉を開けたのは、2000年代半ばの頃だと思う。神戸の古いビルディング内にある小さな一室に、フランスで買い付けられた古くて美しいものが並べられていた。そこに広がっていたのは、まさにCabinet de curiosités / キャビネ・ド・キュリオジテ(和訳:驚異の部屋)の世界観であり、部屋の隅に佇んでいた磁器人形のような店主の存在は、作品の一部のように印象に残った。

キャビネ・ド・キュリオジテはルネサンス時代に始まった、剥製、鉱物、植物、昆虫、貝殻、骨など自然物を中心に人工物も分け隔てなく収集した、珍しいものを並べる展示形式で、博物館の原型とも言われる。人工物というところでは、「ユニコーンの角」のような実在しないものの存在が信じられ、本物と称して贋物が陳列されたりしていたそうだ。目に見えないものを見ようとする人間の想像力は、また別次元の新たなものを生み出す。MAISON GRAIN D’AILEが表現する世界には、現在から過去を見る/過去から未来を見るような、不思議な時間軸が出来ていた。フランス、ヨーロッパだけではなくアジア諸国、日本の古物も並列されていて、特に日本のものは逆輸入されたような感覚で対面することになり、そういう意味でも新しく目に映ったものだ。私はそこで初めて古伊万里の白磁猪口をいくつか購入し、今でも愛用している。

大阪・北浜時代を経て、琵琶湖のほとりに建てた住まい・アトリエはギャラリーを暮らしの中に昇華させた場所で、現在も増築・改修工事が続く。開業から25年が経って、フランス現地に買い付けに行くことは少なくなり、改めて日本美術への思いが募っているという。今では私も同業者として二人を訪ね、たびたび対話しているのだが、目下、未来は火星に移住して骨董屋を営んでいるイメージだそうだ。いつか、これぞという品々を抱いて渡り、火星人を驚かせたい、そんな話をしてくれた。ユニコーンの角を思い描いた、先人の夢のようではないか。いつか誰かが見た夢は我われのものでもある。私がずっと感じていたのは、よく形容されるであろう重厚で静謐な世界観ではなく、膨大な量の収集物や時間の重さを突き抜けるような、圧倒的な軽やかさ。火星人が驚くところを一緒に見たい…そんな話をしながら、グランデールとは、浮遊する種子=とても軽い、と言う意味であることを思い出していた。


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2025年9月に25周年を迎えるMAISON GRAIN D’AILE(メゾングランデール)の展示販売を行います。長きに渡ってフランスの古物を中心に収集し、空間をつくり続けている二人。その経験、知識、目を通して、日本の古物が持つ美しさに焦点を充てた展示になります。


略歴)
MAISON GRAIN D'AILE
Shinsaku HARADA, Maki HARADA

2000年
メゾングランデールとして活動を始める。主にフランスを中心に世界中から美しい・古いものを収集しコレクション展を発表。当初から表現してきた、貝や鉱石・標本などキャビネ・ド・キュリオジテやシュールレアリスムなどの要素を含む古美術の世界を制限した色彩・物語性のある構成を用いて独自のスタイルで確立

2015年
住まいとアトリエを琵琶湖のほとりに移し、MAISON GRAIN D'AILE の家をデザイン・建築。

大阪・北浜にて、より本質的なオブジェを紹介するGALERIE AU BOIS - ギャルリ・オーボワを2018年12月末まで運営したのち、現在はオンラインストアにて販売を続けている。

maisongraindaile.com

photo:Kazumasa Harada

柴田有紀 展

2025/08/02

会期:2025.8.16(土)〜26(火)
作家在廊:17(日)
会期中無休

まだ武蔵美で助手として働いている柴田有紀さんに会いに行ったのは、3月だった。様子を伺いつつ、なんとなく今年の方向性を話す。とりあえず何かを掴もうと手ぶらで行って、抽象的な話で終わってしまうことが多いのだが、この日もそうだった。具体的にかたちとなって一つ二つと便りがあると、ようやく調子が出てくるはずが、歯車がなかなか合わず、更に予定外のこともあって気付けば8月。DM用の写真も撮影できないまま計画が狂いに狂って、会期が一週間遅れてしまった。

そんな中でも明日また初日を迎える。ギリギリ滑り込みで届いた作品は、前回よりもっと磨かれて、新しく、素直な柴田さんらしいかたちばかりだった。奇跡的なタイミングで二度に渡り写真に収めていただくことも出来て、こうなったらこの瞬間も撮ってもらいたかったなー、と切ないほど。ピースはバラバラだったものの、最後にはちゃんと合った。それぞれが似合うような場所をつくりながら、探しものが見つかったような気分だった。


吹きガラスとパート・ド・ヴェールの作品がある。ガラス粉末を石膏型の中で熔融して成型するパート・ド・ヴェールの作品に、美学生が練習で描く静物画のような佇まいを感じていた。型づくりに関しては、身近に既にあるものを型に取る、吹きガラスで制作したものを型に取る、粘土でかたち作ったものを型に取る、などの方法を取っているが、直接ガラスという素材を手で触れることが出来ない吹きガラスに対して、パート・ド・ヴェール作品はもっと自分らしい”かたち”に向き合っているような気がしていた。今回は、そのパート・ド・ヴェールで取り組んでいるような彫刻的なかたちを、吹きガラスに持ち込んでいただいた。

二つの技法で、柴田さんらしい、でも新しいかたちが引き出されたと思う。直前まで色んなことを話したが、キーワードは”静物画”だった。

photo:Kazumasa Harada

壷田和宏 亜矢 ー 続 炭化焼き〆

2025/07/03

会期:2025.7.19(土)〜7.29(火)
作家在廊:19(土)
会期中無休


熱量で焼く土のかたち

窯の中の酸素を奪い、高い温度・熱量を与えて焼き〆る、炭化焼き〆。2022年の展示では穴窯で焼くこの技法を中心に制作をしていただいた。壷田和宏・亜矢さんの表現方法は多岐に渡り、それぞれ魅力があるが、特に炭化は二人が大切にする土の特性・魅力を最大限に活かせた気がして、いつかまた続きをしたいと思っていた。

むしろ、炭化でしか上手く焼けないという 黒原 くろばる 原土は、 白粉 おしろい のようにキメ細かい土で、自宅の近くで採掘し、粘土にしている。他の土とは混ぜずに原土のまま焼くと、見た目とは真逆の印象的なグレー色になり、温度によってはベージュ・ピンクのグラデーションが付くこともある。この土は緩くて崩れ易く、大きく立ち上げるのが難しい。シンプルなプレートや高台の形状は、これが限界がゆえのかたちだそう。B品の器を鋳型にする方法は、粘土を精製する時にボウルに容れておいた土が、そのフォルムを自然に記憶して器のかたちになった経験から。素材と一緒に並走し、土が気持ち良く姿を留める点を探ったり、その辺りに散らばっている美を見い出し・引き出したりしながら、気持ち良くかたちは決まっていく。

壷田さんから、炭化は温度というより熱量で焼くと教えられ、その言葉が響いた。土に物理的な力を加えて色んな姿に変えているが、それは表面のはなしで、真ん中に感じるのは熱量の働き。見えないその力には日常の決まりごとから解き放たれた、ひと時の完全なる自由がパッケージされている。


略歴)

壷田和宏 亜矢 / Kazuhiro , Aya TSUBOTA

1972年
和宏 三重県伊賀市に生まれる
亜矢 愛知県安城市に生まれる
1995年 愛知県芸術大学陶磁器専攻科卒
愛知県長久手市に登窯を築窯
2000年
三重県伊賀市融栗谷に穴窯築窯
2009年
宮崎県高千穂五ヶ所に登窯築窯
2011年
同地に穴窯を築窯






黒原原土

この立ち上がりがギリギリだというプレート

成形している間にも崩れやすい、ゆるゆるの土

失敗した作品が鋳型になる

「底が可愛くなった♡」と喜ぶ壷田さん


登り窯で焼く

前回と今回で違う点がひとつ。本来の炭化は穴窯で焼くところ、今回は工夫して登り窯を使う。理由は2年前に穴窯が壊れてから、新たに作り直す余裕が無かったから。3つある部屋のうち、一番奥の大きな部屋で炭化焼き〆を、残りの部屋では炭化以外の焼き〆・釉薬ものを焼く予定。

天草白磁にガラスを混ぜたものが面白く出来そう、とテストピースを見せていただいた。グリーンがかったグレーとでも言うべきか、何とも表しがたい中間色で、感覚的に良いなと思った。よりプレーンな表情になるようにブレンドして登り窯で焼き〆たら、炭化の有/無でどのような違いが生まれるのかを対比してみたい。

こちらは登り窯で焼いたテストピース

2025年上半期スケジュール

2025/05/14

1月4日(土)ー14日(火) 植田楽(終了)

3月22日(土)ー4月1日(火) moshimoshi(終了)

4月12日(土)ー22日(火) iroiro(終了)

5月3日(土)ー13日(火) FAT TOY + オカモトマナブ(終了)

6月7日(土)ー17日(火) 小松未季(終了)


展示の規模は大小いろいろです。
予定は変更になる可能性があります。事前にweb site、SNSをご確認のうえご来店いただきますようお願い致します。

展示会の詳細はこちらのHPで随時ご案内しております。

小松未季

2025/05/13

会期:2025.6.7(土)〜6.17(火)
作家在廊:7(土)
会期中無休

過日、小松さんからLINEが届いた。ポンポンポンと流れてきた複数枚の写真はざらざらっとしていて、砂漠のように見えた。続けてメッセージには、こうあった。


「近況報告です。空気を作ろうと思ったら、海みたいになりました。空気を閉じ込めようと思っていましたがこれはこれで…」


それは大きな作品で、板ガラスに別の素材を合わせ、焼いて、一つにする。ガラスとの間に異物があると部分的に膨らみが生じて、中に空洞が出来る。波のようでもあり、確かに、平らな面が広ければ広いほど海みたいだ。近づいて見ると視界は粗い粒子でいっぱいになり、終いには何も見えなくなる。そこには、一人で訪れた穏やかな海の世界が広がっている。

小松さんの小さな作業場にはストックされた素材が雑然と、でも大事そうに並んでいる。板ガラス、割れた蛍光灯、ビー玉、ネジ、砂、粘土細工。自身が制作したものもあるが、ほとんどが棄てられていたもので、何が、いつ、作品のピースとして召喚されるのかは分からないが、失敗した過去の制作物も素材として大事に取ってあるそうだ。ガラスにガラス、または異素材を合わせて熱を加えると、どうなるのか。

1.割れる
2.時間をかけて割れる
3.一つになる

この実験は素材同士が受け入れあってこそ成功と言えそうだが、内包しても、相反して割れても、「泣き笑い」と表現し、どちらも自然な姿だと捉えている。学生時代に吹いて、数年後に真っ二つに割れたというガラス鉢も素材としてきちんと置かれていた。ガラスはただ美しいだけではなく脆い存在だからこそ、魅力的なのだ。

小松さんとは昨年に私が参加した、松本での小さなグループイベントで出会った。その時に展示されていた『呼気』は最初に吹いた息のかたち・空気をガラスに閉じ込めた小作品で、時に自分自身が素材の一つとして寄り添うこともある。私は隣で、ただ素材と素材を組み合わせて並べるというディスプレイをすることにしたのだが、作品と作家との間に少し距離がある点に親近感を覚えた。ある程度のところで手放し、現象としてかたちを留めた作品は、表現のために素材を利用していないように感じて気持ちが良かったのだ。気が付くと、自分の搬入作業を後回しにして…キラキラした繊細な欠片たちが一番似合うであろう、居場所を彼女と一緒に探していた。


略歴)
小松未季

1997年京都府生まれ
6歳より神奈川県藤沢市で育つ。
2022年武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科ガラス専攻卒業
2024年同校大学院造形研究科修士課程美術専攻彫刻コース修了


photo:Kazumasa HARADA
IG X
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