臼杵春芳

2021/10/26

会期:2021.11.13(土)- 11.22(月) 11:30-18:00
休廊:16(火),17(水)
作家在廊:11.13(土)~15(月)

「もとは彫刻をしていたのに、なぜ漆を掻(か)こうと思ったんですか?」と臼杵さんに聞いてみた。「生活のために家具を作るようになって、最初は買った漆を使ってた。日本の漆なんてほとんど無いから中国産なんやけど、日本製の家具を謳ってるのに全然日本製とちゃうやん、と思って」――なるほどお!!...とはならないが、そもそものところからやりたくなってしまう発想と行動力に感嘆する。今では少なくなった漆を植林する活動もライフワークのひとつ。長年拠点としていた京都を離れ、地元の香川に戻るにあたりまずは自分の敷地に漆の苗を植えた。

近所には讃岐塗のベテラン木地師・岩崎寿夫さんがいて、お盆の裏に円を描きながらカンナで滑り止めを彫る「ざんだら」など讃岐特有の木地を挽(ひ)いてくれる。作業場は路面電車が走る道沿いにある大正時代の踏切番の家。岩崎さんの継ぎ手は無く、70年のキャリアをそろそろ畳む予定だそうだ。臼杵さん自身の轆轤や手刳(ぐ)りを木地とした作品もあるが、この二人の分業シリーズも好きだったのに...。知った時にはずっとあって欲しいと思う色んなものが、終わりかけている。

最近思うに漆という古来の塗料は少しカガクっぽい。素材の表面に膜を張り、コーティングしたり、くっつけたりする便利な作用がある。例えば木目を消したり着色もできるから、元の素材を包み込んで、生かすも殺すも出来る。定着するのに湿度と時間を要するのがシゼンの不思議ではあるが、プラスチックの誕生も遡れば樹液が素材として一役かったことを思い出した。昔と今は繋がっている気がするなあ。とにかく便利で、うちの朝食はサラッと済ませたいから塗りの器を使うのが定番。軽いし洗いやすいし割れにくいしで、プラスチック並みに扱いが楽なのだ。しかし漆の採取は想像よりも壮絶で、一液ではなく一粒から。もっと溢れ出てくれるものだとばかり思っていました、すみません。もう誰もしたがらない仕事だと臼杵さんは言うが、今は過渡期。この一粒が次の時代のわずかな接着剤になってくれる気がするのですが、どうでしょう?私もそれにくっついて行きます。



臼杵春芳 / USUKI Haruyoshi
1954年生まれ。1977年彫刻家新宮晋氏に師事。京都を拠点に建築家との共同作業で店舗や個人住宅の家具制作を行う。近年は工房を香川へ移し、漆の木の栽培をはじめ、漆掻き、木地師、塗師の一連の工程を一人で行っている。
写真:森善之

www.usuki-koubou.com

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